和歌と俳句

種田山頭火

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元旦の捨犬が鳴きやめない

水仙いちりんのお正月です

ひとり煮てひとり食べるお雑煮

先祖代々菩提とぶらふ水仙の花

うまい手品も寒い寒い風

正月二日の金峰山も晴れてきた

お正月熊本を見おろす

自動車も輪飾かざつて走る

お正月も暮れてまだ羽子をついてゐる

お正月のまんまるいお月さんだ

水仙けさも一りんひらいた

今年のお正月もお隣りのラヂオ

ひそかに蓄音機かけてしぐれる

ひとり住んで捨てる物なし

戻れば水仙咲ききつてゐる

おみくじひいてかへるぬかるみ

しぐれ、まいにち他人の銭を数へる

干し物そのままにしてしぐれてゐる

星が寒うはれてくるデパートの窓も

いちりんのその水仙もしぼんだ

雪夜、隣室は聖書ものがたり

安か安か寒か寒か雪雪

かあいらしい雪兎が解けます

雪の朝郵便も来ない

十分に食べてふる

凍て土をひた走るバスも空つぽ

雪の日の一把

一把一銭の根深汁です

晴れて遠く阿蘇がまともにまつしろ

に焼かれる魚がうごいてゐる

ふる、売らなきやならない花をならべる

霙ふるポストへ投げこんだ無心状

に明るく灯して母子です

凩のラヂオをりをりきこえる

凩、餅がふくれあがる

日向ぼつこする猫も親子

ホウレン草の一把一銭ありがたや

小春日、仏像を買うて戻つた

二つ、けふのいのち

木枯やぼうぼうとしてゐる

よろめくや寒空ふけて

夫婦喧嘩もいつしかやんだ寒の月

寒空、別れなければならない

いちにちいちりんの水仙ひらく

握りしめるその手のヒビだらけ

ラジオ声高う寒夜へ話しかけてゐる

逢ふまへのたんぽぽ咲いてゐる

ここに住みなれてヒビアカギレ