裏富士のすそ野ぐもりに別れ霜
初ひばり農地は昼もうるほひて
日の御座ひばり鳴くねをちぢむなり
春さむや燈下に一つ硯筥
竹むらにさき満つ櫻ちりそむる
さきそめし雲閧フさくらやや遅き
夜すずみに白桃の香を愛すかな
兜蟲ふみつぶされてうごきけり
秋をこの日かげを惜しみ草木揺る
桶にして花はたかめに閼伽の水
いわし雲大いなる瀬をさかのぼる
兒をだいて日々のうれひにいわし雲
山墓の枝につられし盆燈籠
はなれ温泉の四窗にせまる霜の闇
つる枯るる埴崕くづれ霜柱
ちかよりて老婦親しく日向ぼこ
冬に入る空のけんらん日々ふかく
冬畑やもの芽に灰をすこしづつ
雪山の夕かげふみて猟の幸
みそさざいふりしく暮雪紊るなし