梨の花月に書よむ女あり
人なき日藤に培ふ法師かな
うつむけに春うちあけて藤の花
炉ふさぎや床は維摩に掛替る
菜の花や遠山どりの尾上まで
梨の園に人彳めりおぼろ月
むき蜆石山のさくら散りにけり
一輪を五つにわけて梅ちりぬ
鶯の二声はなく枯木かな
春の夜や宵あけぼのゝ其中に
きじ啼や草の武蔵の八平氏
うつゝなきつまみごゝろの胡蝶哉
手まくらの夢はかざしの桜哉
燕啼て夜蛇をうつ小家かな
ふためいて金の間を出る燕かな
飛魚となる子育るつばめかな
菜の花や油乏しき小家がち
なのはなや魔爺を下れば日のくるゝ
商人を吼る犬ありもゝの花
さくらより桃にしたしき小家哉
ゆき暮て雨もる宿やいとざくら
花に暮て我家遠き野道かな
もゝの花ちるや任口去てのち
烏帽子脱で升よとはかる落花哉
さくら散て刺ある草の見ゆるかな
日暮日暮春やむかしのおもひ哉
花に暮ぬ我すむ京に帰去来