和歌と俳句

與謝蕪村

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ほうらいの山まつりせむ老の春

白梅や墨芳しき鴻ろ館

橋なくて日暮んとする春の水

陽炎や名もしらぬ虫の白き飛

木瓜の陰に皃類ひ住むきゞす

門前の嫗がやなぎの糸かけぬ

うぐひすや堤をくだる竹の中

鳥さしを尻目に藪の咲ぬ

留主もりて遠く聞日かな

雉子うちてもどる家路の日はたかし

御忌の鐘ひゞくや谷の氷まで

春月や印金堂の木間より

瀟湘の鴈のなみだやおぼろ月

蓴生ふ池のみかさや春の雨

月に聞てながむる田面かな

閣に座して遠きをきく夜哉

出船や蜂うち払ふみなれ棹

彳めば遠きも聞ゆかはずかな

海手より日は照りつけて山ざくら

さくら一木春に背けるけはひかな

海棠や白粉に紅をあやまてる

遅き日のつもりて遠きむかしかな

花に去ぬ鴈の足跡よめかぬる

しら梅や誰むかしより垣の外