のろひ歌 かきかさねたる 反古とりて 黒き胡蝶を おさへぬるかな
額しろき 聖よ見ずや 夕ぐれを 海棠に立つ 春夢見姿
笛の音に 法華経うつす 手をとどめ ひそめし眉よ まだうらわかき
白檀の けむりこなたへ 絶えずあふる にくき扇を うばひぬるかな
母なるが 枕経よむ かたはらの ちひさき足を うくくしと見き
わが歌に 瞳のいろを うるませし その君去りて 十日たちけり
かたみぞと 風なつかしむ 小扇の かなめあやふく なりにけるかな
春の川 のりあひ舟の わかき子が 昨夜の泊の 唄ねたましき
泣かで急げ やは手にはばき 解くえにし えにし持つ子の 夕を待たむ
燕なく 朝をはばきの 紐ぞゆるき 柳かすむや その家のめぐり
小川われ 村のはづれの 柳かげに 消えぬ姿を 泣く子朝見し
鶯に 朝寒からぬ 京の山 おち椿ふむ 人むつまじき
道たまたま 蓮月が庵の あとに出でぬ 梅に相行く 西の京の山
君が前に 李青蓮説く この子ならず よき墨なきを 梅にかこつな
あるときは ねたしと見たる 友の髪に 香の煙の はひかかるかな
わが春の 二十姿と 打ぞ見ぬ 底くれなゐの うす色牡丹
春はただ 盃にこそ 注ぐべけれ 智慧あり顔の 木蓮の花
さはいへど 君が昨日の 恋がたり ひだり枕の 切なき夜半よ
人そぞろ 宵の羽織の 肩うらへ かきしは歌か 芙蓉といふ文字
琴の上に 梅の実おつる 宿の昼よ ちかき清水に 歌ずする君