和歌と俳句

柿本人麻呂

万葉集・巻第一・雑歌
嗚呼見乃浦尓船乗為良武■嬬等之珠裳乃須十二四寳三都良武香

嗚呼見の浦に舟乗りすらむをとめらが玉裳の裾に潮満つらむか

万葉集・巻第一・雑歌
釼著手節乃埼二今日毛可母大宮人之玉藻苅良武

釧着く答志の崎に今日もかも大宮人の玉藻刈るらむ

万葉集・巻第一・雑歌
潮左為二五十等兒乃嶋邊榜船荷妹乗良六鹿荒嶋廻乎

潮騒に伊良虞の島辺漕ぐ船に妹乗るらむか荒き島廻を


万葉集・巻第一・雑歌
阿騎乃野尓宿旅人打靡寐毛宿良目八方古部念尓

阿騎の野に宿る旅人うち靡き寐も寝らめやもいにしへ思ふに

万葉集・巻第一・雑歌
真草苅荒野者雖有葉過去君之形見跡曽来師

ま草刈る荒野にはあれど黄葉の過ぎにし君が形見とぞ来し

万葉集・巻第一・雑歌
東野炎立所見而反見為者月西渡

東の野にはかぎろひ立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ

万葉集・巻第一・雑歌
日雙斯皇子命乃馬副而御■立師斯時者来向

日並皇子の命の馬並めてみ狩立たしし時は来向ふ


万葉集・巻第二・挽歌
久堅之天所知流君故尓日月毛不知恋渡鴨

ひさかたの天知らしぬる君故に日月も知らず恋ひわたるかも

万葉集・巻第二・挽歌
埴安乃池乃堤之隠沼乃去方乎不知舎人者迷惑

埴安の池の堤の隠り沼のゆくへを知らに舎人は惑ふ

万葉集・巻第二・挽歌
哭澤之神社尓三輪須恵雖祷祈我王者高日所知奴

哭澤の神社に御瓶据ゑ祈れども我が大君は高日知らしぬ


久堅乃天帰月乎網尓刺我大王者蓋尓為有

ひさかたの天行く月を網に刺し我が大君は蓋にせり

皇者神尓之坐者真木乃立荒山中尓海成可聞

大君は神にしませば真木の立つ荒山中に海を成すかも