和歌と俳句

万葉集

巻第一

 << 戻る | 次へ >>

     軽皇子宿于安騎野時 柿本朝臣人麻呂作歌
八隅知之 吾大王 高照 日之皇子  神長柄 神佐備世須等 太敷為 京乎置而  隠口乃 泊瀬山者 真木立 荒山道乎  石根 禁樹押靡 坂鳥乃 朝越座而  玉限 夕去来者 三雪落 阿騎乃大野尓  旗須為寸 四能乎押靡 草枕 多日夜取世須 古昔念而

     軽皇子、安騎野に宿ります時に、柿本朝臣人麻呂が作る歌
やすみしし 我が大君 高照らす 日の御子 神ながら 神さびせすと 太敷かす 都を置きて こもりくの 泊瀬の山は 真木立つ 荒山道を 岩が根 禁樹押しなべ 坂鳥の 朝越えまして 玉かぎる 夕さり来れば み雪降る 安騎の大野に 旗すすき 小竹を押しなべ 草枕 旅宿りせす 古思ひて

   短歌

阿騎乃野尓宿旅人打靡寐毛宿良目八方古部念尓

安騎の野に宿る旅人うち靡き寐も寝らめやもいにしへ思ふに

真草苅荒野者雖有葉過去君之形見跡曾来師

ま草刈る荒野にはあれど黄葉の過ぎにし君が形見とぞ来し

東野炎立所見而反見為者月西渡

東の野にはかぎろひ立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ

日双斯皇子命乃馬副而御■立師斯時者来向

日並皇子の命の馬並めてみ狩立たしし時は来向ふ