和歌と俳句

万葉集

巻第三

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   柿本朝臣人麻呂下筑紫国時 海路作歌二首

   柿本朝臣人麻呂、筑紫の国に下る時に、海路にして作る歌二首

名細寸稲見乃海之奥津浪千重尓隠奴山跡嶋根者

名ぐはしき印南の海之沖つ波千重に隠りぬ大和島根は

大王之遠乃朝庭跡蟻通嶋門乎見者神代之所念

大君の遠の朝廷とあり通ふ島門をみれば神代し思ほゆ

   高市連黒人近江旧都歌一首 
如是故尓不見跡云物乎楽浪乃旧都乎令見乍本名

   高市連黒人が近江の旧都の歌一首 
かく故に見じと云ふものを楽浪の旧き都を見せつつもとな

   幸伊勢国之時 安貴王作歌一首 
伊勢海之奥津白波花尓欲得■而妹之家■為

   伊勢国に幸す時に、安貴王が作る歌一首 
伊勢の海の沖つ白波花にもが包みて妹が家づとにせむ

   博通法師往紀伊国見三穂石室作歌三首

  博通法師が紀伊国に行き、三穂の石室を見て作る歌三首

皮為酢寸久米能若子我伊座家留三穂乃石室者雖見不飽鴨

はだすすき久米の若子がいましける三穂の石室は見れど飽かぬかも

常磐成石室者今毛安里家礼騰住家類人曽常無里家留

常磐なす石室は今もありけれど住みける人ぞ常なかりける

石室屋戸尓立在松樹汝乎見者昔人乎相見如之

岩室屋戸に立てる松の木汝を見れば昔の人を相見るごとし