和歌と俳句

万葉集

巻第三

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   田口益人大夫任上野国司時 至駿河浄見埼作歌二首

   田口益人大夫、上野の国司に任ずる時に、駿河の清見の崎に至りて作る歌二首

廬原乃浄見乃埼乃見穂之浦乃寛見乍物念毛奈信

廬原の清見の崎の三保の浦ゆたゆけき見つつ物思ひもなし

昼見騰不飽田児浦大王之命恐夜見鶴鴨

昼見れど飽かぬ田子の浦大君の命恐み夜見つるかも

   弁基歌一首 
亦打山暮越行而廬前乃角太河原尓独可毛将宿 
    右或云弁基者春日蔵首老之法師名也

真土山を夕越え行きて廬前の角太河原にひとりかも寝む
    右は、或いは、弁基本は春日蔵首老が法師名といふ

   大納言大伴卿歌一首 
奥山之菅葉凌零雪乃消者将惜雨莫零行年

奥山の菅の葉しのぎ降る雪の消なば惜しけむ雨な降りそね

   長屋王駐馬寧楽山作歌二首

   長屋王、馬を奈良山に駐めて作る歌二首

佐保過而寧楽乃手祭尓置幣者妹乎目不離相見染跡衣

佐保過ぎて奈良の手向けに置く幣は妹を目離れず相見しめとぞ

磐金之凝敷山乎超不勝而哭者泣友色尓将出八方

岩が根のこごしき山を越えかねて音には泣くとも色に出でめやも

   中納言安倍広庭卿歌一首 
児等之家道差間遠焉野于子乃夜渡月尓競敢六鴨

子らが家道やや間遠きをぬばたまの夜渡る月に競ひあへむかも