ゆく春の 雨ののちなり 朝露の 蜘の巣がきに 似たる星の夜
榛の枝 さやかに春の 目に青き 木みちを家に さそひ給ひぬ
今日すぎて 思はるる期の なしとする 今日見すてずて 時なしとする
いづくにか 酸き酒もとめ くらへるに あらずや怪しき わが心ども
かぎりなき 艶にきけよと おぼろ夜を 細目に戸あけ もの云ひし声
朱のかむり 白たへ長き 後ひきて かけろと云ひぬ 時守司
高き屋に のぼる月夜の はださむみ 髪の上より 羅をさらに着ぬ
おぬひもの 薬研のひびき うちつづく 軒下がよひ 道修町ゆく
きたなげに 胸ふくだめし 女房の 鬚もそよぎぬ 春風ふけば
千鳥きく 冬の火桶の まむかひに 春の鳥居ぬ よき羽やすめて
神無月 濃きくれなゐの 紐たるる 鶏頭の花 しらぎくの花
皷打 春の女の よそほひと 一人しておふ 百斤の帯
この人ら 因果のちから なみしつつ こしには似たれ まなび給ふな
しら藤の しなひ長きに 雨ふりて 春くるる日に 人のきましぬ
けうとさに ものも云はれず 思ふ子を 二人と云へと 云ひしながらに
うきにうみ われを憎まぬ 路人を なつかしとする いやしきこころ
十余人 臼歌すなり 夕立の いかづち去ぬを おくろと云ひて
ゆく春や 高燈台の むらさきの 灯かげの海に 細き雨ふる
まちの雨 比叡の小雪の ゆきかひに みぞれとなりし 京の北かな
口どにも 管貝とよぶ 海人の子よ 玉藻の中の 妹が中ざし