和歌と俳句

高浜虚子

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一々に送り迎へや牡丹園

真直ぐにの町や東山

蓑著けて出づ隠れ家やの雨

宇陀の野に都草とはなつかしや

夏草に黄色き魚を釣り上げし

榛名湖のふちのあやめに床机かな

よく滑る沼のほとりや五月雨

簗かけて早泥鰌落つニ三匹

雨の輪の浮葉のそばにさはしなき

に雨のやみたる水の面かな

蓴沼蛇の渡りて静なり

藻多く船脚頓に重たけれ

夏川に架かれる橋に木戸ありぬ

我為に主婦が座右のを打つ

古簾越しに起居のしとやかに

にじみたる真赤なる繪や安団扇

金亀虫擲つ闇をかへし来る

京伝も一九も居るや夕涼み

自ら其頃となる釣荵

日焼せる子の顔を見て笑ひけり

泳ぎ子の誰が誰やら判らざる

牡丹の葉に包まれて崩れをり

流れたる花粉のしみや白牡丹

たらたらと祭太鼓をうちつづけ

澤水の川となり行くがくれ

塵すてて葵の花の傾けり

子烏を飼へる茶店や松の下

灯取蟲映画に飛んであぢきなや

舟に乗る人や真菰に隠れ去る

緑陰や人の時計をのぞき去る

藻に乗りて蛇我舟を見送れり

戻る子と行く母と逢ふ月見草

月見草灯台守の子ははだし

七つ葉は岩手の山の麓にも

ぐんぐんと伸び行く雲の峰のあり

俯すごとく走れる人やはたた神

立ちて雨逃げて行く廣野かな

立つや湖畔の漁戸の両三戸

バス来るやの立ちたる湖畔村

火の山の麓のに舟遊

石狩の源の先づ三つ

涼し己が煙に包まれて

の胸に懐紙の透き見ゆる

浴衣着て少女の乳房高からず

神にませばまこと美はし那智の瀧

まぢまぢと寝てゐたりけり暑気中り