百官の衣更へにし奈良の朝
セルを着て病ありとも見えぬかな
各々の薔薇を手にして園を出づ
今朝も亦露のさうびをはさみけり
徐ろに歩を移し剪るさうびかな
鵜飼見の船よそほひや夕かげり
松風に騒ぎとぶなり水馬
なつかしきあやめの水の行方かな
よりそひて静なるかなかきつばた
夕立の虹見下ろして欄に倚る
大夕立来るらし由布のかきくもり
くづをれて団扇づかひの老尼かな
此方へと法の御山のみちをしへ
客の座に朱の漆の鮓の桶
日焼せし旅の戻りの京の宿
わだつみに物の命のくらげかな
なく聲の大いなるかな汗疹の兒
懇ろに寝冷えの顔を化粧けり
はなびらの垂れて静かや花菖蒲
姉妹や麥藁籠にゆすらうめ
萍の莖の長さや山の池
川船のギイとまがるやよし雀
扇取る法被の袖をかかげつつ
繪扇にかくしおほせし面輪かな
落語聞く静かに団扇使ひつつ
うち笑ひ団扇づかひのせはしなき
清瀧の橋の上まで日蔽かな
岩の間人出て瀧を仰ぎけり
浴衣きし我等を闇の包みつつ
広告の行燈通る橋すずみ