向日葵の名残花が塩田の夕風に
酒樽洗ふ夕明り鵙がけたたまし
普請八分目山茶花に菊は衰へて
蚊帳青う寝覚めよき夜の稿つげり
蚊帳そよと吹く風も眠気誘ふほど
筧かくも高う見て時雨山越す
水仙に掃き寄せつ癖の胸張りぬ
緋桃しるき村の朝僧が二人行く
捨苗いつか花つけし南瓜うれしけれ
青葉透いて裏映ゆる瓦斯のみづみづし
水よどめば風薫るままの水馬
星の空も秋近き風呂水流す音
子らも浴衣すがすがし食後手を曳いて
黙す瞬間いと朗らなる松虫よ
病めば踏む露しみじみ糸瓜忌となれり
洩れ灯流るる垣鶏頭に虫ほがら
曼珠沙華のみ眼に燃えて野分夕空し
気まぐれの旅暮れて桜月夜なる
花の頃は亡き我に庭木暖き
徹夜ほのぼの明けそめし心水仙に
花菜ほのぼの香を吐いて白みそめし風
梔子花ほのと暮残る庭樹さみだれて
髪毛焼けしは何の兆ざしと五月雨に
朝焼おそき旦薔薇は散りそめぬ
沈み行く夜の底へ底へ時雨落つ
櫨の赤さ土手行く人は寒う消えたり
墓場隅の小さき墓の櫨紅葉かな
雪空ゆるがして鴨らが白みゆく海へ
児らは火燵に数よみて暮れそめし部屋に
大根刻む音淋し今日も暮れけるよ
湖は半面冬日照る和やかな波
唄さびしき隣室よ青き壁隔つ
火燵火もなしわが室は洞のごと沈めり
林檎かぢる児に冬日影あたたけれ
毬は少女の手を外れて時雨沁む砂へ
厳めしく門立てり落葉ふりやまず
空の青さよ栴檀の実はしづかに垂れて
菜屑寒き溜り水今日も夕映えぬ
汽車とどろけば鴉散る銀杏真裸なり
水仙ほのと藪凪げる真昼歩くとり
雪はやまずよ雪蹴りて行く人々に
火の番またも鳴らし来ぬ恋猫の月
濃き煙残して汽車は凩の果てへ吸はれぬ
おびえ泣く児が泣寝入る戸外はしぐるるよ
障子の明るさ干足袋の濃き影が揺れつつ
夕日そそげり崖ずり梅の真白きに
牡丹蕾みけらば小雨しみじみそそぐなり
春夜寒し囚徒囲みて物いはぬ人々
寝足りし朝よ谷鶯の啼きたえず