和歌と俳句

日野草城

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ゆきちがふいづれもセルのをとめたち

二三點雨のかわかぬセルの肩

アネモネやひとりのお茶のしづこころ

青蔦を遠ざかりたる西日かな

初蝉ときづきてさやにきこえけり

初蝉やしきりにひかる蔦若葉

初蝉のひとつのこゑのつづきけり

初蝉の樹のゆふばえのこまやかに

青空を蜚ときのありみちをしへ

夏の蝶仰いで空に搏たれけり

空梅雨の草木しづかに曇りけり

下り来てしづかな淵の梅雨曇

なまなまと緋の濡れてゐる水着かな

脚ながく水着のをとめ歩き去る

削り氷の鎗や穂高や出来にけり

じやがいもの花のさかりのゆふまぐれ

扇風機つばさが消えて風となる

遊ぶ蠅すず風にまた乗りにける

書記・雇昼寝を愉む簿書の蔭

足の裏さすりて端居たのしけれ

砌這ふ蟻をながめて涼みけり

いとけなき柘榴の壺が揺れてゐる

寝みだれてあるらむ蚊帳のあやなくも