和歌と俳句

種田山頭火

前のページ< >次のページ

とんぼふれても竹の皮のおちる

とぶは萱の穂、おちるは竹の皮

いつもの豆腐でみんなはだかで

蝉なくやヤツコよう冷えてゐる

したしさははだかでたべるヤツコ

風はうらからさかなはヤツコで

金借ることの手紙を書いて草の花

朝蝉、何かほしいな

夕蝉、かへつてゆくうしろすがた

ともかくもけふまでは生きて夏草のなか

ぽとりぽとり青柿が落ちるなり

風がふきぬけるころりと死んでゐる

食べる物がない涼しい風がふく

どうせもとのからだにはなれない大根ふとる

生えて移されてみんな枯れてしまつたか

酒と豆腐とたそがれてきて月がある

青田風ふく、さげてもどるは豆腐と酒

食べる物はあつて酔ふ物もあつて草の雨

どうにもならない空から青柿

若竹はほしいままに伸びる炎天

雨を待つ風鈴のしきりに鳴る

炎天のはてもなむの行列

身のまはり草の生えては咲いて実る

空梅雨いちにち、どなられてぶたれて馬の溜息

空は空梅雨の雨蛙なくとても

その竹の子も竹になつた、さびしさにてへて

もう死んでもよい草のそよぐや

死ねる薬はふところにある草の花

灯すよりぶつかつてくる虫のいのちで

青田いちめんの送電塔かな

虫が蔓草のぼりつめて炎天

ひでり空、咲いて鬼百合の情熱は

しげりふかく忘れられたるなつめの実

きのふのいかりをおさへつけては田の草をとる

炎天まうへにけふのつとめの汗のしたたる

蝉の声はたえずしてきりぎりす

むしあつく鴉の声は濁つてゐる

窓へからんで糸瓜がぶらりと

風の雀がとまらうとする竹がゆらいで

ゆふ風によもがへり草も虫も

暮れると出てくる油虫だけ

ひでりつづきの踊太鼓の遠く近く

風鈴すずしい雑草青い朝がきた

いつまで降らない蕗の葉もやぶれ

ぎいすはらめばはひあるくひでりばたけ

百合咲けばお地蔵さまにも百合の花

よい酒だつた草に寝ころぶ