和歌と俳句

種田山頭火

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筍あんなに伸びて朝月のある空へ

いつもなる風鈴で夏らしう鳴り

晴れて朝から雀らのおしやべりも

糸瓜の蔓がここまで筍があつた

空梅雨のゆふ風や筍はしづくして

こころあらためて七月朔日の朝露を踏む

家いつぱいに昇る日をまともに郵便を待つ

たづねてくれるみちの草だけは刈つておく

郵便やさんがきてゆけばまた虫がなく

すこし風が出て畳へちつてくるのは萱の穂

ひとりひつびり竹の子竹になる

うれしいこともかなしいことも草しげる

生きたくもない雑草すずしくそよぐや

あをあをと竹の子の皮ぬいでひかる

竹の子竹となつた皮ぬいだ

竹の子伸びるよとんぼがとまる

坐層すずしく人声ちかづく

すくすくと筍のひたすら伸びる

暮れるとひやつこい風がうら藪から

けさは鶯がきてこうろぎも鳴く

炎天、かぜふく

おもくて暑くてねぎられてまけるのか

ここにもがとなりの藪から

炎天、とんぼとぶかげ

いま落ちる陽の、風鈴の鳴る

けふも暑からの山の鴉のなくこゑも

朝からはだかでとんぼがとまる

かうしてながらへてが鳴きだした

藪を伸びあがり若竹の青空

若竹ゆらゆらてふてふひらひら

いつぴきとなりおちつかない蠅となつてゐる

炎天の萱の穂のちるばかり

ま昼しづかに蜂がきては水あびる

すずしい風のきりぎりすがないてとびます

炎天、なんと長いものをかついでゆく

父が母が、子もまねをして田草とる

炎天、きりぎりすはうたふ

朝の水があつて蜘蛛もきて水のむ