胡瓜ばかりたべる胡瓜なんぼでもふとる
炎天落ちる葉のいちまい
炎天、がつがつ食べるは豚
青田のなかの蓮の華のひらいた
汲みあげた芥がおよげばいもりの子かよ
バケツの水もゆたかにいもりの子はおよぐ
からむものがない糸瓜が糸瓜に
食べる物がない夜中のあぶら虫やつてきた
草にも風が出てきた豆腐も冷えただろ
ゆふなぎを、とんでゐつてふねてゐるてふ
田の草をとるせなかの子は陽にやかれ
めつきり竹になつてしづくしてゆふ風に
ここを死場所として草はしげるままに
汲む水もかれがれに今日をむかへた
百姓なれば石灰をまく石灰にまみれて炎天
朝はすずしくお米とお花とさげてもどる
夕立つや若竹のそよぎやう
青田も人も濡れてゐる雨のあかるく
ここまでさくらが、窓あけておく
あすはかへらうさくらがちるちつてくる
病み臥してまことに信濃は山ばかり
虫が火のなか声もろともに無くなつた
そばの花もうてふてふがきてゐる
さびしさにたへて草の実や
さびしい手が藪蚊をうつ
月夜風呂たく麦わらもにぎやかに燃えて
宵月ほつかりとある若竹のさき
うつ手を感じて街の蠅うまく逃げた
うまく逃げた蠅めが壺の花のうへに
モシモシよい雨ですねよい酒もある待つてゐる
どしやぶりのそのおくで蠅のなく
草にてふてふがきてあそぶ其中一人
ランプ消せば月夜の雨が草に地べたに
ゆふぐれさつなくむしあつくうめくは豚か
山のすがたが三十五年の夢
ここで死にたい萱の穂の散りてはとぶ
山あをあをと死んでゆく
みんな死んでしまうことの水音
ぽとりと青柿が炎天の音
しがないくらしの、草がやたらにしげります
夏の夜あるけばいつか人ごみの中