和歌と俳句

種田山頭火

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けふ咲きだした糸瓜が一つあすは二つで

うまくだまされたが、月がのぼつた

蠅はうごかない蠅たたきのしたで

いつしよに昼寝さめてかなかな

待つても待つても来ない糸瓜の花もしぼんでしまつた

けさも雨ふる鏡をぬぐふ

月夜、飲んでも酔はない二人であるく

道がまつすぐ大きなものをころがしてくる

よい雨が音たかくふる、これで十分

かうして暮らして何もかもだらけ

山のみどりを霧がはれたりつつんだり

うれしい朝の、かぼちやの大きい花かな

赤い花が、墓場だつた

あつい温泉が湧いてのうせんかつらの花が咲いて

おぢいさんは高声で、ふんどしのあとも

濡れて歩いてしよんぼり昼顔

けふは飲めるガソリンカアで行く

むしあつくやつとホームイン

こんやの最終は満員でバスガールはうたひつつ

月へうたふバスガールのネクタイの涼しく

しろいてふてふに いつうまれたか きいろいてふてふ

蚊帳越しにまともに月が青葉のむかうから

月の水鶏がせつなく啼いて遠ざかる

郵便やさんがばさりと朝日へ投げだしてくれた

くらがり風鈴の鳴りしきる

炎天の鴉の声の濁つてゐる

月あかり白い薬を飲むほどは

草ふかくここに住みついて涼しく

炎天の地しばり草の咲きつづく

おそい月が出てきりぎりす

ねむり薬もねさしてはくれない月かげ

夜蝉よここにもねむれないものがゐる

風がすずしく吹きぬけるので蜂もてふてふも

死ねる薬をまへにしてつくつくぼうし

草の青さをしみじみ生き伸びてゐる

住みなれて草だらけ

のぼる陽をまつ糸瓜の花とわたくしと

さらりと明けてゐるへちまのはな

朝月はすずしいいろの桔梗がひらく