炎天のヱンジンのまはるとどろき
なんとかかんとか蠅もつれてきて
こころむなしくして糸瓜咲く
炎天、はてもなくさまよふ
炎天、否定したり肯定したり
右は海へ左は山へ木槿咲いてゐる
ひとりしんみりとゐてかびだらけ
なんと朝酒はうまい糸瓜の花
炎天ぶらりと糸瓜がならんで
ゆく手とほく雲の峰とほく
暑さ、この児はとても助かるまい
もう秋風のすすき穂をそろへ
虫なくや投げだした私なれども
しんみりあほく空のゆふ月があつた
山のしたしさは水音をちこち
雑草ふかく見えかくれゆく馬のたてがみ
炎天の鴉一羽で啼く
こころあらためてつくつくぼうし
あきないひまなへちまなどぶらさがり
ふときてあるくふるさとは草の花さかり
炎天のレールまつすぐに
炎天のかげはとびかふとんぼ
せんだんもこんなにふとつたかげで汗ふく
腹いつぱい飲んで寝るふるさとの水
空も秋がきた地しばり草の花も
つくつくぼうしよ死ぬるばかりの私となつて
死ねる薬が身ぬちをめぐるつくつくぼうし
今が最後の、虫の声の遠ざかる
家があつて墓があつて草が青くて
草の中ゆく私の死のかげ
誰にあげよう糸瓜の水をとります
猿と人間と金網と炎天と
誰か来さうな糸瓜がぶらりと曇天
夕焼ふかく何かを待つてゐる
しぐれて遠くラヂオがうたひだした
つゆ草のさけばとて雨ふるふるさとは
誰もこないでちらちらするのは萱の穂で
ずんぶりと湯の中の手足いとほしや
質草一つ出したり入れたりして秋
また質入する時計ちくたく
蠅が打つ手のかげが秋風
めうがのこ それもふるさとの にほひをさぐる
おもひでのみち尾花墓場まで
ポプラに風も秋めいてきた坑木の堆積
ここにわたしが つくつくぼうしが いちにち
月のへちまの水がいつぱい
いつでも死ねる草の枯るるや