和歌と俳句

松尾芭蕉

山賎のおとがい閉るむぐらかな

夏衣いまだ虱をとりつくさず

ほととぎすなくなくとぶぞいそがはし

卯花も母なき宿ぞ冷じき

五月雨や桶の輪きるる夜の声

髪はえて容顔蒼し五月雨

五月雨に鳰の浮巣を見に行む

鰹売いかなる人を酔すらん

いでや我よきぬのきたりせみごろも

酔て寝むなでしこ咲る石の上

瓜作る君があれなと夕すずみ

さざれ蠏足はひのぼる清水

一つぬひで後に負ひぬ衣がへ

灌仏の日に生れあふ鹿の子

若葉して御めの雫ぬぐはばや

鹿の角先一節のわかれかな

二俣にわかれ初けり鹿の角

杜若語るも旅のひとつ哉

蛸壺やはかなき夢を夏の月

月はあれど留主のやう也須磨

月見ても物たらはずや須磨の夏

須磨のあま矢先に鳴くか郭公

ほととぎす消行方や嶋一つ

かたつぶり角ふりわけよ須磨明石

須磨寺やふかぬ笛きく木下やみ

海士の顔先見らるるやけしの花