けふもまためづらしきかなももしきや雲の上人ころもがへして
卯の花の咲ける山路のゆふづくよ光を雪のそふるとぞみる
あふひ草ひかげになびく心あれば天つやしろもあはれかくらむ
またれてはただにも過ぎずほととぎすことかたらふぞあはれなりける
おくやまの谷のうきぬのあやめ草ひくひとなしに根や流るらむ
ふしみつや浮田の早苗とる田子は袖もひたすらみしぶつくらむ
ますらをは鹿に心をかけつとやしのぶの山に夜をあかすらむ
五月雨はおふの浦なし波こえてなりもならずも知らぬころかな
雨ののち花たちばなを吹く風にものさへ匂ふ夕暮れのそら
夏蟲のはかなき身よりいかにして暗きを照らすちきりなりけむ
蚊遣火のけぶりばかりや山がつの宿を知らるるよそめなるらむ
夏の日も心の水を澄ませとや池のはちすに露のすずしき
冬ののち夏もよりこぬ氷室山秋やはじめて時をしるらむ
ましみづの君もるこゑを夜きけば枕のしたの心地こそすれ
けふもたれ五十鈴の川に禊して荒ぶる神も夏越なるらむ
いつしかに今朝は袂のかろきかな秋は衣にたつにぞありける
たなばたや天の川より通ひけむ誰れか名づけし星合の濱
もののふのいるのの原と知りながら萩さきぬれば鹿のなくこゑ
をみなへし露をば玉のかづらにて霧のまがきにたちかへるらむ
過ぎがてにわれこそ見つれ花すすき招くは風になびくなりけり