和歌と俳句

古今和歌集

恋歌一

篝火にあらぬわが身の なぞもかく涙の河にうきてもゆらむ

篝火の影となる身のわびしきは 流れてしたにもゆるなりけり

はやき瀬にみるめおひせば わが袖の涙の河にうゑましものを

おきへにも寄らぬ玉藻の浪のうへに乱れてのみや恋ひわたりなむ

葦鴨のさわぐ入江の白浪の 知らずや 人をかく恋ひむとは

人しれぬ思ひをつねにするがなる富士の山こそ わが身なりけれ

とぶ鳥のこゑもきこえぬ奥山の ふかき心を人はしらなむ

逢坂のゆふつけどりも わがごとく人やこひしき ねのみなくらむ

逢坂の関にながるる石清水 いはで心におもひこそすれ

うき草のうへはしげれる淵なれや 深き心を知る人のなき

打ちわびてよばはむ声に山彦のこたへぬ山は あらじとぞ思ふ

心がへするものにもが 片恋はくるしきものと 人にしらせむ

よそにしてこふれはくるし 入紐のおなじ心にいざ結びてむ

春たてばきゆる氷の のこりなく 君が心は我にとけなむ

明けたてば蝉のをりはへなきくらし 夜は蛍のもえこそわたれ

夏虫の身をいたづらになすことも ひとつ思ひによりてなりけり

夕さればいとどひがたきわが袖に 秋のさへおきそはりつつ

いつとてもこひしからずはあらねども 秋の夕べはあやしかりけり

秋の田の穂にこそ人をこひざらめ などか心に忘れしもせむ

秋の田の穂のうへをてらすいなづまの光のまにも我やわするる

人目もる我かは あやな 花すすきなどかほにいでて恋ひずしもあらむ

あは雪のたまればかてに くだけつつわが物思ひのしげきころかな

奥山の管の根しのぎふる雪の けぬとかいはむ 恋のしげきに