伊勢の海につりするあまのうけなれや心ひとつを定めかねつる
伊勢の海のあまのつり縄うちはへてくるしとのみや思ひわたらむ
涙河なにみなかみをたづねけむ物思ふ時のわが身なりけり
種しあれば岩にも松はおひにけり恋をしこひば逢はざらめやも
朝な朝な立つ河霧の空にのみ浮きて思ひのある世なりけり
わすらるる時しなければ葦たづの思ひ乱れてねをのみぞなく
唐衣日も夕ぐれになる時は返す返すぞ人はこひしき
よひよひに枕さだめむ方もなしいかにねし夜か夢に見えけむ
恋しきに命をかふるものならば死にはやすくぞあるべかりける
人の身もならはしものを逢はずしていざこころみむ恋ひや死ぬると
忍ぶれば苦しきものを人しれず思ふてふことたれにかたらむ
こむ世にもはやなりななむ目の前につれなき人を昔とおもはむ
つれもなき人をこふとて山彦のこたへするまで嘆きつるかな
ゆく水にかずかくよりもはかなきはおもはぬ人を思ふなりけり
人を思ふ心は我にあらねばや身のまどふだに知られざるらむ
思ひやるさかひはるかになりやするまどふ夢路にあふ人のなき
夢の内にあひ見むことを頼みつつくらせるよひは寝むかたもなし
恋ひ死ねとするわざならしむばたまのよるはすがらに夢に見えつつ
涙河枕ながるるうきねには夢もさだかに見えずぞありける
恋すれはわが身は影となりにけりさりとて人にそはぬものゆゑ