せきわびぬ逢ふ瀬もしらぬ涙河かたしく袖や井出のしがらみ
幾とせに馴れにし床のふりぬらむ黄楊の枕も苔生ひにけり
みちのくのあら野の牧の駒だにもとればとられて馴れゆくものを
あやなしや恋すてふ名は立田川袖をぞくぐるくれなゐのなみ
思ひいでよ忘れやしぬる若狭路やのちせの山と契りしものを
夢にだに逢ふ瀬ありやと待つべきに枕のみ浮く涙河かな
うつつには思ひ絶えゆく逢ふことをいかに見えつる夢路なるらむ
いひ通ふ道だにたえぬ逢ふことの長柄の橋はさこそ朽ちなめ
昔みし人のみ今は恋しきを又逢ふまじき事ぞ悲しき
新古今集・恋
逢ふことは交野の里の笹のいほ篠に露ちる夜半の床かな
夜をかさね寂しき床に菅まくら幾たび鐘のこゑをきくらむ
おしてるや濱の南の松原もいくきの千代を君に添ふらむ
色かへぬ御垣のうちの呉竹も君が御代にぞ千代はしるらむ
和歌の浦の風にたちそふ友鶴の君が千歳に逢ふぞうれしき
よつのうみ治まれる代は音とにきく亀のを山も波ぞ寄せ来む
昔きく野邊のいはやぞあはれなる嵐のそこを夢に見えけむ
かけていへば厭ひもすらむ春日山さりとていかが頼まざるべき
吉野川いはこす波を眺むれば絶えせぬ水の心をぞ知る
落ちたぎつ千々の流れはつもれども変はらぬものは沖つ白波
いかにして憂き身ながら君が代の千代はじめの今日に逢ふらむ