衣こそかふともかへめ春のいろに染めし心はいつかうつらむ
卯の花の垣根の露にやどりきて春わすれよとゆふつくよかな
夏もなほ心はつきぬ紫陽花の四ひらの露に月もすみけり
しのび妻待つにぞ似たるほととぎす語らふこゑは馴れぬものゆゑ
ほととぎす皐月の空に契りおきて人の心をそらになすらむ
夏の夜の長くもあらばほととぎす今ひとこゑも待たましものを
よそへても昔は今はかひもなし花たちばなの袖の香もかな
たちばなにあやめの枕かをる夜ぞ昔をしのぶ限りなりける
さなへ月さみだれそむるはじめとや四方のやまくも曇りゆくらむ
五月雨は沼のうきくさ岩こえてかはづのとこもねや絶えぬらむ
ますらをや端山分くらむともしける蛍にまがふ夕闇のそら
山の井を掬びて夏は暮れぬべし秋やたちなむ志賀の浦浪
鳴滝や西の川瀬に禊せむ岩こすなみも秋や近きと
潮路より秋やたつたむ明方はこゑかはるなり須磨の波風
風のおとを荻の葉のみと聞き来しを葛のうらにも秋は見えけり
七夕のあかぬ名残りの袖よりや秋は露けきころとなるらむ
ゆふづくよ木の間もりくる宵の間は心づくしのはじめなりけり
夏の野は草のしげみのさゆりばも秋は露にやしをれはつらむ