和歌と俳句

古今和歌集

恋歌五

いなば
あひ見ぬもうきもわが身のから衣 思ひ知らずもとくるひもかな

すがのの忠臣
つれなきを 今は恋ひじとおもへども 心よわくもおつる涙か

伊勢
人知れずたえなましかば わびつつもなき名ぞとだにいはましものを

よみ人しらず
それをだに思ふ事とて わがやどを見きとないひそ 人の聞かくに

よみ人しらず
逢ふことのもはら絶えぬる時にこそ 人の恋しきことも知りけれ

よみ人しらず
わびはつる時さへものの悲しきは いづこをしのぶ涙なるらむ

藤原興風
怨みてもなきてもいはむ方ぞなき 鏡に見ゆるかげならずして

よみ人しらず
夕されば人なき床を打ちはらひなげかむためとなれるわが身か

よみ人しらず
わたつみのわが身こす浪 立ち返り あまのすむてふうらみつるかな

よみ人しらず
あらをだをあらすきかへしかへしても 人の心を見てこそやまめ

よみ人しらず
ありそ海の浜のまさごと頼めしは 忘るる事のかずにぞありける

よみ人しらず
葦辺より雲ゐをさして行く雁の いや遠ざかるわが身かなしも

よみ人しらず
しぐれつつもみづるよりも 言の葉の心の秋にあふぞわびしき

よみ人しらず
秋風のふきとふきぬる武蔵野は なべて草葉の色かはりけり

小町
秋風にあふたのみこそかなしけれ わが身むなしくなりぬと思へば

平貞文
秋風の吹きうらかへすくずの葉の うらみてもなほうらめしきかな

よみ人しらず
秋といへばよそにぞききし あだ人の我をふるせる名にこそありけれ

よみ人しらず
わすらるる身を宇治橋の 中たえて人もかよはぬ年ぞへにける

坂上是則
あふ事を長柄の橋の ながらへて恋ひわたるまに 年ぞへにける

友則
浮きながらけぬる泡ともなりななむ ながれてとだに頼まれぬ身は

よみ人しらず
流れては妹背の山のなかにおつる吉野の河の よしや世の中