後撰集・秋
声たてて なきぞしぬべき 秋霧に 友まどはせる 鹿にはあらねど
たれきけと こゑたかさごに さを鹿の ながながしよを ひとりなくらむ
うちはへて かけとぞたのむ みねの松 色どる秋の 風にうつるな
拾遺集・冬
ゆふされば 佐保の河原の 河霧に 友まどはせる 千鳥なくなり
古今集・秋
秋風に 初雁がねぞ きこゆなる たがたまづさを かけてきつらむ
古今集・秋
たがための 錦なればか 秋霧の 佐保の山べを たちかくすらむ
古今集・秋
花みつつ 人まつ時は 白妙の 袖かとのみぞ あやまたれける
古今集・秋
露ながら 折りてかざさむ 菊の花 おいせぬ秋の ひさしかるべく
かくばかり もみづる色の 濃ければや 錦たつたの 山といふらむ
みる毎に 秋にもあるかな 立田姫 もみぢそむとや 山もきるらむ
はつしぐれ 降れば山辺ぞ おもほゆる いづれのかたか まづもみづらむ
からごろも 立田の山の もみぢばは ものおもふ人の 涙なりけり
古今集・秋
ひともとと 思ひし花を おほさはの 池のそこにも たれかうゑけむ
ひともとと おもひし菊を おほさはの 池のそこには たれかうゑけむ
古今集・恋
春霞 たなびく山の 桜花 見れどもあかぬ 君にもあるかな
古今集・恋
我が恋を 忍びかねては あしひきの 山橘の 色にいでぬべし
古今集・恋
よひのまも はかなく見ゆる 夏虫に まどひまされる 恋もするかな
古今集・恋
蝉のこゑ きけばかなしな 夏衣 うすくや人の ならむと思へば
古今集・恋
くれなゐの 色にはいでじ 隠れ沼の したにかよひて 恋ひは死ぬとも
たまかづく あまならねども わたつうみの そこひもしらず おもひつるかな
後撰集・恋
玉藻刈る あまにはあらねど わたつみの そこひも知らず 入る心かな