和歌と俳句

古今和歌集

恋歌三

凡河内みつね
長しとも思ひぞはてぬ 昔より逢ふ人からの秋のよなれば

よみ人しらず
しののめのほがらほがらと明けゆけば 己がきぬぎぬなるぞかなしき

藤原国経朝臣
明けぬとて今はの心つくからに などいひしらぬ思ひそふらむ

としゆきの朝臣
明けぬとてかへる道には こきたれて 雨も涙もふりそぼちつつ


しののめのわかれを惜しみ 我ぞまづ鳥よりさきに鳴きはじめつる

よみ人しらず
ほととぎす夢かうつつか 朝露のおきてわかれし暁のこゑ

よみ人しらず
玉匣あけば君が名たちぬべみ 夜ふかくこしを 人見けむかも

大江千里
けさはしもおきけむ方も知らざりつ 思ひいづるぞ消えてかなしき

なりひらの朝臣
ねぬる夜の夢をはかなみまどろめば いやはかなにもなりまさるかな

伊勢物語・六十九段 よみ人しらず
君やこし我や行きけむ おもほえす 夢かうつつか ねてかさめてか

返し なりひらの朝臣
かきくらす心のやみにまどひにき 夢うつつとは世人さだめよ

よみ人しらず
むばたまの闇のうつつは さだかなる夢にいくらもまさらざりけり

よみ人しらず
さ夜ふけて天の門わたる月影に あかずも君をあひ見つるかな

よみ人しらず
君が名もわが名もたてじ 難波なるみつともいふな あひきともいはじ

よみ人しらず
名取川せぜのむもれ木 あらはればいかにせむとか あひ見そめけむ

よみ人しらず
吉野河 水の心ははやくとも 滝の音にはたてじとぞおもふ

よみ人しらず
恋しくはしたにをおもへ 紫のねずりの衣 色にいづなゆめ

をののはるかぜ
花すすき穂にいでて恋ば名を惜しみ した結ふ紐のむすぼほれつつ

よみ人しらず
思ふどちひとりひとりが恋ひ死なば たれによそへて藤衣きむ

返し たちはなのきよき
泣き恋ふる涙に袖のそほちなば ぬぎかへがてら夜こそはきめ