こまち
うつつにはさもこそあらめ 夢にさへ人めをもると見るがわびしさ
こまち
限なき思ひのままによるもこむ 夢路をさへに人はとがめじ
こまち
夢路には足もやすめず通へども うつつに一目見しごとはあらず
よみ人しらず
おもへとも人めつつみのたかければ 河と見ながらえこそわたらね
よみ人しらず
たぎつ瀬のはやき心を なにしかも人めつつみのせきとどむらむ
きのとものり
紅の色にはいでじ 隠れ沼のしたにかよひて恋ひは死ぬとも
みつね
冬の池にすむにほ鳥のつれもなく そこに通ふと人に知らすな
みつね
ささの葉におく初霜の夜をさむみ しみはつくとも色にいでめや
よみ人しらず
山科の音羽の山の おとにだに人の知るべくわが恋ひめかも
清原ふかやぶ
みつ潮の流れひるまをあひがたみ みるめの浦によるをこそ待て
平貞文
白川の知らずともいはじ 底きよみ流れて世世にすまむと思へば
とものり
したにのみ恋ふればくるし 玉のをのたえてみたれむ 人なとがめそ
とものり
わが恋をしのびかねては あしひきの山橘の 色にいでぬべし
よみ人しらず
おほかたはわか名もみなとこぎいでなむ 世をうみべたに見るめすくなし
平貞文
枕より又しる人もなき恋を 涙せきあへずもらしつるかな
よみ人しらず
風ふけは浪打つ岸の松なれや ねにあらはれて泣きぬべらなり
よみ人しらず
池にすむ名ををし鳥の水をあさみ 隠るとすれどあらはれにけり
よみ人しらず
逢ふ事は玉の緒ばかり 名のたつは吉野の川のたぎつせのごと
よみ人しらず
むら鳥のたちにしわが名 今更にことなしぶともしるしあらめや
よみ人しらず
君により我が名は花に 春霞 野にも山にもたちみちにけり
伊勢
知るといへば枕だにせでねしものを 塵ならぬ名のそらにたつらむ