木のもとに 衣かたしき 旅寝せむ 花散る里と みてやかへらむ
藻塩焼く あまをとめごが あさ衣 あさましきまで 人のつれなき
よろづ代を 契りはじむる けふなれば 暮るるさへこそ 久しかりけれ
かよひこし 井手のいははし たどるまで ところもさらず 咲ける山吹
わが背子が 来まさぬときは うちなびき ひとり有明の 月をこそ見れ
かどのとの 草の庵に 宿りして わが身の程を つひに知るかな
さみだれに しづくの山の ほととぎす しののに濡れて さよなかになく
関守が 弓にきるてふ つきの木の つきせぬ恋に われおとろへぬ
ゆふづくよ 花たちばなに 吹く風を 誰が袖ふると 思ひけるかな
契りこし 程は過ぎぬと 思へども 待つとはいはじ 年もこそ経れ
夏衣 たちきしひより ほととぎす 寝るよもなしに 今ぞなくなる
よとともに 波越す磯の そなれ木の しづ枝や恋の 衣なるらむ
露むすぶ 秋にははやく なりにけり 浅茅が花の うつろふ見れば
秋風や ややたちぬらむ 夢さめて 袂すずしく なりもゆくかな
恋をして 年の経ぬるに をみなへし うらやましくも 結ぶ露かな
柴の庵も たまのうてなも 空はれて おなし心に すめる月かな
いつとなく 思ひしよりも なかなかに 暮れ行く空を まつにけぬべし
とへかしな たまくしの葉に みかくれて 百舌鳥の草潜き 目路ならずとも
知らずやは 伊勢の濱荻 風ふけば をりふしごとに 恋ひわたるとは
卯の花の 垣根ならずば ほととぎす いつしか今朝の 声きかましや