和歌と俳句

藤原定家

千五百番歌合

郭公まつに心のうつるより袖にとまらぬ春の色かな

まつとせし人のためとはながめねど茂る夏草みちもなきまで

時しらぬ里は玉川いつとてか夏の垣根をうづむしらゆき

葵草かりねの野邊にほととぎす暁かけて誰をとふらむ

なほざりに山ほととぎす鳴きすてて我しもとまる杜のしたかげ

夕暮れは鳴くね空なるほととぎす心のかよふ宿やしるらむ

またれつつ年にまれなる郭公さつきばかりのこゑなをしみそ

今日はいとどおなじ緑にうづもれて草の庵もあやめふくなり

天の川やそせもしらぬ五月雨に思ふもふかき雲のみをかな

袖の香を花たちばなにおどろけば空にありあけの月ぞのこれる

ひさかたのなかなる川の鵜飼舟いかにちぎりて闇をまつらむ

夏衣たつた河原を来て見ればしのにおりはへ浪ぞほしける

夏の月はまだ宵の間とながめつつ寐るや河邊のしののめの空

山のかげおぼめく里にひぐらしの聲たのまるる夕顔の花

誰がみそぎおなじ浅茅のゆふかけてまづうちなびく加茂の河風

けさよりは風をたよりのしるべにて跡なき浪も秋や立つらむ

水ぐきの岡の葛原ふきかへし衣手うすき秋のはつかぜ

夕暮れは小野の篠原しのばれぬ秋きにけりとなくなり

松の葉のいつともわかぬ影にしもいかなる色にかはる秋風

露を重み人は待ちえぬ庭のおもに風こそはらへもとあらの萩