和歌と俳句

藤原定家

千五百番歌合

夢なれやをののすが原かりそめに露分けし袖は今もしをれて

新古今集・恋
たづねみるつらき心のおくの海よ汐干のかたのいふかひもなし

人ごころ通ふただちの絶えしより恨みぞわたる夢のうきはし

面影はなれしながらの身にそひてあらぬ心のたれちぎるらむ

おもひいでよたがきぬぎぬの暁もわがまだしのぶ月ぞ見ゆらむ

忘れねよこれはかぎりとぞばかりの人づてならぬ思ひ出もうし

はてはただ蜑のかる藻をやどりにて枕さだむる宵々ぞなき

枯れぬるはさぞなためしとながめてもなぐさまなくに霜の下草

時つ風ふけひの浦にあがひてもたがためにかは身をもおしみし

ひさかたの月ぞかはらで待たれける人にはいひしやまのはのそら

おほかたのつきもつれなき鐘のおとになほうらめしき有明のそら

立つけぶり野山のすゑのさびしさは秋ともわかず夕暮れの空

幾世へぬかざしをりけむいにしへにみわの檜原の苔の通ひ路

駒とめしひのくま河の水きよみ夜わたる月のかげのみぞ見る

空に吹くおなじ風こそ聲立つれ峰の松が枝あらいその波

朝夕は頼むとなしにおほぞらのむなしき雲をうちながめつつ

磯馴れ松しづえやためしおのれのみ変らぬ色に波の越ゆらむ

年ふれば霜夜の闇に鳴く鶴をいつまで袖のよそにききけむ

いたづらにあたら命をせめぎけむ長らへてこそ今日に逢ひぬれ

和歌の浦にかひなき藻屑かきつめて身さへ朽ちぬと思ひけるかな