夢なれやをののすが原かりそめに露分けし袖は今もしをれて
新古今集・恋
たづねみるつらき心のおくの海よ汐干のかたのいふかひもなし
人ごころ通ふただちの絶えしより恨みぞわたる夢のうきはし
面影はなれしながらの身にそひてあらぬ心のたれちぎるらむ
おもひいでよたがきぬぎぬの暁もわがまだしのぶ月ぞ見ゆらむ
忘れねよこれはかぎりとぞばかりの人づてならぬ思ひ出もうし
はてはただ蜑のかる藻をやどりにて枕さだむる宵々ぞなき
枯れぬるはさぞなためしとながめてもなぐさまなくに霜の下草
時つ風ふけひの浦にあがひてもたがためにかは身をもおしみし
ひさかたの月ぞかはらで待たれける人にはいひしやまのはのそら
おほかたのつきもつれなき鐘のおとになほうらめしき有明のそら
立つけぶり野山のすゑのさびしさは秋ともわかず夕暮れの空
幾世へぬかざしをりけむいにしへにみわの檜原の苔の通ひ路
駒とめしひのくま河の水きよみ夜わたる月のかげのみぞ見る
空に吹くおなじ風こそ聲立つれ峰の松が枝あらいその波
朝夕は頼むとなしにおほぞらのむなしき雲をうちながめつつ
磯馴れ松しづえやためしおのれのみ変らぬ色に波の越ゆらむ
年ふれば霜夜の闇に鳴く鶴をいつまで袖のよそにききけむ
いたづらにあたら命をせめぎけむ長らへてこそ今日に逢ひぬれ
和歌の浦にかひなき藻屑かきつめて身さへ朽ちぬと思ひけるかな