和歌と俳句

藤原定家

千五百番歌合

花すすき草のたもともくちはてぬなれてわかれし秋をこふとて

しぐれこしきしの松かげつれもなくすむにほどりの池のかよひぢ

まきのやに時雨あられはよがれせでこほるかけひのおとづれぞなき

これやさは秋のかたみのうらならんかはらぬ色をおきの月かげ

浦風にやくしほけぶりふきまよひたなびく山の冬ぞさびしき

鳴く千鳥袖のみなとをとひ来かしもろこし舟も夜のねざめに

ことぞともなくて今年もすぎの戸のあけておどろく初雪の空

かたしきの床のさむしろこほる夜にふりかしぐらん峯の白雪

雪ふかき眞野のかやはら跡たえてまだこととほし春のおもかげ

宿ごとに春のかすみを待つとてや年をこめては急ぎ立つらむ

あめつちとかぎりなかれと誓ひおきし神のみことぞ我が君のため

さねこじの榊にかけしかがみにぞ君がときはの影は見えけむ

新古今集・賀
わが道をまもらば君をまもるらむよはひはゆづれ住吉の松

よろづよの春秋きみになづさはむ花と月とのすゑぞひさしき

四方の海もけぶりにぎはふはまびさし久しき千代に君ぞさかえむ

あふことのまれなる色やあらはれむもり出でてそむる袖の涙に

たれかまたものおもふことは教へおきし枕ひとつを知る人にして

恋しさのわびていざなふよひよひに行きては帰る道のささ原

片糸の逢ふとはなしに玉の緒もたえぬばかりぞおもひみだるる

新古今集・恋
消えわびぬうつろふ人の秋の色に身をこがらしのもりの下露