馬内侍
たまくしげ身はよそよそになりぬともふたり契りしことな忘れそ
和泉式部
いづかたに行くとばかりはつげてましとふべき人のある身と思はば
和泉式部
かくばかり忍ぶる雨を人とはばなににぬれたる袖といふらむ
和泉式部
空になる人の心はささがにのいかにけふ又かくてくらさむ
和泉式部
三笠山さしはなれぬとききしかど雨もよにとは思ひしものを
よみ人しらず
歎かじなつひにすまじき別れかはこはある世にと思ふばかりを
中納言定頼
いにしへのきならし衣いまさらにそのものごしのとけずしもあらじ
相模
まことにや空になき名のふりぬらむあまてる神のくもりなきよに
藤原長能
こりぬらむ仇なる人に忘られてわれならはさむ思ふためしは
馬内侍
春雨のふるめかしくもつぐるかなはや柏木のもりにしものを
清原元輔
いにしへの常世の國やかはりにしもろこしばかり遠くみゆるは
右兵衛督朝任
わたの原たつ白浪のいかなれば名残ひさしく見ゆるなるらむ
返し 赤染衛門
風はただ思はぬかたに吹きしかどわたの原たつ浪はなかりき
相模
人しれず心ながくや時雨るらむ更けゆく秋の夜半の寝覚めに
大江匡衡朝臣
逢坂の関のあなたもまだみねば東のこともしられざりけり
馬内侍
かきくもれ時雨るとならば神無月こころそらなる人やとまると
清少納言
夜をこめて鳥の空音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
素意法師
ふるさとの三輪の山辺を尋ぬれど杉まの月の影だにもなし
相模
東路のそのはらからはきたりとも逢坂まではこさじとぞおもふ
兵衛姫君
ちらさじと思ふあまりに桜花ことのはをさへ惜しみつるかな
下野
さらでだに岩間の水はもるものを氷とけなば名こそながれめ
四條宰相
祈りけむ事は夢にて限りてよさても逢ふてふ名こそ惜しけれ