橘季通
武隈の松はふたきを都人いかがととはばみきとこたへむ
能因法師
武隈の松はこのたび跡もなしちとせをへてや我はきつらむ
大江嘉言
里人のくむだに今はなかるべし岩井の清水みくさゐにけり
江侍従
年へたる松だになくば浅茅原なにかむかしのしるしならまし
左衛門督北方
年をへてみる人もなきふるさとにかはらぬ松ぞあるじならまし
源為善朝臣
君がうゑし松ばかりこそ残りけれいづれの春の子の日なりけむ
馬内侍
誰をけふまつとはいはむかくばかり忘るるなかのねたげなるよに
大蔵卿師経
みどりにて色もかはらぬ呉竹はよのながきをや秋としるらむ
前太宰帥資仲
いはしろのをのへの風に年ふれど松のみどりはかはらざりけり
白河院御製
よろづよの秋をもしらですぎきたる葉がへぬ谷の岩根松かな
藤原義孝
み山木をねりぞもてゆふしづのをは猶こりずまの心とぞみる
民部卿経信
旅寝する宿はみ山にとぢられて正木のかづらくる人もなし
藤原範永朝臣
鳥もゐで幾代へぬらむ勝間田の池にはいゐのあとだにもなし
藤原経衡
たちのぼるもしほの煙たえせねば空にもしるき須磨の浦かな
中納言定頼
くる人もなき奥山の瀧の絲は水のわくにぞまかせたりける
辨乳母
ものいはばとふべきものを桃の花いくよかへたる瀧の白絲
藤原兼房朝臣
せきいれたるなこそ流れてとまるともたえずみるべき瀧の絲かは
赤染衛門
あせにける今だにかかる瀧つ瀬の早くぞ人はみるべかりける
祭主輔親
さきの日に桂の宿を見しゆゑはけふ月の輪にくべきなりけり