和歌と俳句

新古今和歌集

恋四

清愼公
宵々に君をあはれと思ひつつ人にはいはで音をのみぞ泣く

返し よみ人しらず
君だにも思ひ出でける宵々を待つはいかなるここちかはする

よみ人しらず
恋しさに死ぬる命を思ひ出でて問ふ人あらばなしと答へよ

謙徳公
別れては昨日今日こそ隔てつれ千世しも経たる心地のみする

返し 惠子女王
昨日とも今日とも知らず今はとて別れしままの心まどひに

右大将道綱母
絶えぬるか影だに見えば問ふべきを形見の水は水草ゐにけり

陽名門院
方々に引き別れつつ菖蒲草あらぬねをやはけけむと思ひし

伊勢
言の葉の移ろふだにもあるものをいとど時雨の降りまさるらむ

右大将道綱母
吹く風につけても問はむささがにの通ひし道は空に絶ゆとも

村上天皇御歌
葛の葉にあらぬわが身も秋風の吹くにつけつつうらみつるかな

醍醐天皇御歌
霜さやぐ野邊の草葉にあらねどもなどか人目のかれまさるらむ

御返し よみ人しらず
浅茅生ふる野邊やかるらむ山がつの垣ほの草は色もかはらず

女御徽子女王
霞むらむ程をも知らずしぐれつつ過ぎにし秋の紅葉をぞ見る

御返事 村上天皇御歌
今来むとたのめつつふる言の葉ぞ常磐に見ゆる紅葉なりける

朱雀院御歌
玉ぼこの道は遙かにあらねどもうたて雲居にまどふころかな

御返事 女御熈子女王
思ひやる心は空にあるものをなどか雲居にあひ見ざるらむ

後朱雀院御歌
春雨の降りしくころは青柳のいと乱れつつ人ぞこひしき

御返し 女御藤原生子
青柳のいと乱れたるこの頃はひと筋にしも思ひよられじ

後朱雀院御歌
青柳の絲はかたがたなびくとも思ひそめてむ色はかはらじ

御返し 女御生子
浅みどり深くもあらぬ青柳は色かはらじといかがたのまむ