權中納言公経
恋ひわぶるなみだや空に曇るらむ光もかはるねやの月かげ
左衛門督通光
いくめぐり空行く月もへだてきぬ契りしなかはよその浮雲
右衛門督通具
いま来むと契りしことは夢ながら見し夜に似たるありあけの月
藤原有家朝臣
忘れじといひしばかりのなごりとてその夜の月は廻り来にけり
摂政太政大臣良経
思ひ出でて夜な夜な月に尋ねずは待てと契りし中や絶えなむ
藤原家隆朝臣
忘るなよ今は心のかはるとも馴れじその夜のありあけの月
法眼宗圓
そのままに松のあらしも変らぬを忘れやしぬるふけし夜の月
藤原秀能
人ぞ憂きたのめぬ月はめぐり来てむかしわすれぬ蓬生の宿
摂政太政大臣良経
わくらばに待ちつる宵もふけにけりさやは契りし山の端の月
藤原有家朝臣
来ぬ人を待つとはなくて待つ宵の更け行く空の月もうらめし
藤原定家朝臣
松山とちぎりし人はつれなくて袖越す浪にのこる月かげ
皇太后宮大夫俊成女
ならひ来し誰がいつはりもまだ知らで待つとせしまの庭の蓬生
二條院讃岐
あと絶えて浅茅がすゑになりにけりたのめし宿の庭の白露
寂蓮法師
来ぬ人を思ひ絶えたる庭の面の蓬がすゑぞ待つにまされる
左衛門督通光
尋ねても袖にかくべきかたぞなきふかき蓬の露のかごとを
藤原保季朝臣
かたみとてほの踏み分けしあともなし来しは昔の庭の荻原
法橋行遍
なごりをば庭の浅茅に留め置きて誰ゆゑ君が住みうかれけれ
藤原定家朝臣
忘れずはなれし袖もや氷るらむ寝ぬ夜の床の霜のさむしろ
藤原家隆朝臣
風吹かば峯に別れむ雲をだにありしなごりの形見とも見よ
摂政太政大臣良経
いはざりき今来むまでの空の雲月日へだててもの思へとは