あしびきの山路のあきになる袖はうつろふひとのあらしなりけり
いつかさはまたは逢ふ瀬を松浦がたこの河上に家はすむとも
とほざかる人の心はうなばらの沖行く舟のあとの汐かぜ
身にたへぬおもひをすまの関すゑて人に心をなどとどむらむ
人ごころ緒絶の橋に立ちかへり木の葉ふりしく秋の通ひ路
いはざりき我が身ふるやの忍ぶ草思ひたがへて種をまけとは
恋ひ死なば苔むす塚にかへふりてもとの契りの朽ちや果てなむ
鴨のゐる入江のなみをこころにて胸と袖とにさわぐ恋かな
うらやまず臥す猪の床はやすくとも歎くもかたみねぬも契りを
忘れじの契りうらむるふるさとの心も知らぬ松虫のこゑ
笛竹のただひとふしを契りにて世々のうらみを残せとやおもふ
昔聞く君が手なれのことならば夢に知られて音をも立てまし
ぬしやたれ見ぬ世のことをうつしおく筆のすさびにうかぶ面影
こひそめしおもひのつまの色ぞこれ身にしむ春のはなの衣手
新古今集・恋
忘れずば馴れし袖もやこほるらむねぬ夜の床の霜のさむしろ
心通ふゆききの舟のながめにもさしてかばかりものは思はじ
一夜かす野がみの里のくさまくら結びすてける人のちぎりよ
袖ぞ今はをじまの海人もいさりせむほさぬたぐひと思ひけるかな
山ふかきなげきこるをのおのれのみ苦しくまどふ恋の道かな
たつの市や日を待つしづのそれならば明日知らぬ身にかへて逢はまし