春くれば星のくらゐに影見えて雲井のはしに出づるたをやめ
かすみあへず猶ふる雪に空とぢて春ものふかき埋火のもと
氷ゐし水のしらなみ立ちかへり春風しるき池のおもかな
遅くとくおのがさまざま咲く花もひとつふたばの春の若草
ももしきやいてひく庭のあづさゆみ昔にかへる春にあふかな
みな人の春の心の通ひ来てなれぬる野邊の花のかげかな
立つ雉のなるる野原もかすみつつ子を思ふ道や春まどふらむ
すゑとほき若葉のしばふうちなびき雲雀なく野の春の夕暮
くりかへし春のいとゆふいくよへておなじ緑のそらに見ゆらむ
霞かは花うぐひすにとぢられて春にこもれる宿のあけぼの
ながめわびぬ光のどかにかすむ日に花さく山は西をわかねど
袖の雪そらふく風もひとつにて花ににほへる志賀の山ごえ
からひとのあとをつたふる盃のなみにしたがふ今日も来にけり
ほのかなる枯野のすゑのあらを田にかはづも春の暮うらむなり
このもとは日數ばかりをにほひにて花ものこらぬ春のふるさと
影ひたす水さへ色ぞみどりなる四方の梢のおなじ若葉に
夏山の草葉のたけぞ知られぬる春見し小松人しひかずは
雲の上を出づるつかひのもろかづらむかふ日影にかざす今日かな
をちこちにながめやかはす鵜飼舟やみをひかりのかがり火のかげ
夏の夜はなるる清水のうきまくら結ぶほどなきうたたねの夢