和歌と俳句

藤原定家

六百番歌合

よしさらば今はしのばで恋ひしなむ思ふにまけし名にだにも立て

年ぞふる見るよなよなも重なりて我もなき名か夢かとぞ思ふ

心さへまたよそ人になりはてば何かなごりの夢の通ひ路

あらざらむ後の世までを恨みてもその面影をえこそ疎まね

いかなりし世々の報のつらさにてこの年月によわらざるらむ

面影も別れにかはる鐘のおとにならひ悲しきしののめの空

雲かかり重なる山を越えもせず隔て増るは明くる日の影

おほかたの露はひるまで別れける我が袖ひとつ残る雫に

こひわびてわれとながめし夕暮もなるれば人のかたみ顔なる

頼めぬを待ちつる宵も過ぎはててつらさとぢむる片しきの袖

あかつきにあらぬ別れもいまはとてわがよふくればそふ思ひかな

葉をわかみまだふしなれぬ呉竹のこはしをるべき露の上かは

悲しきはさかひことなる中としてなき魂までやよそにうかれむ

涙せく袖のよそめはならへども忘れずやとも問ふひまぞなき

ふるさとを出でしにまさる涙かな嵐の枕ゆめにわかれて

やすらひに出でにしままの月の影わが涙のみ袖にまてども

時のまに消えてたなびく白雲のしばしも人にあひみてしがな

知らざりし夜深き風のおともにず手枕うとき秋のこなたは

さはらずばこよひぞ君を頼むべき袖には雨のときわかねども

かぎりなき下のおもひの行方とて燃えむけぶりのはてや見ゆべき