かつをしむながめもうつる庭の色よ何をこずゑの冬にのこさむ
白菊のちらぬは残るいろがほにはるは風をもうらみけるかな
夢かさは野邊の千草のおもかげはほのぼのなびく薄ばかりや
狩衣おどろの道も立ちかへりうち散るみゆき野風寒けし
この山のみねのむら雲ふきまよひ槙の葉つたひ雹ふりきぬ
ひととせをながめつくせる朝戸いでに薄雪こほるさびしさのはて
あらはれてまた冬ごもる雪のうちにさも年深き松の色かな
椎柴は冬こそ人に知られけれこととふあられ残るこがらし
ひきかくる閨のふすまの隔てにも響きはかはる鐘のおとかな
河竹のなびくはかぜも年くれて三世の佛の御名を聞くかな
新古今集・恋
なびかじなあまのもしほ火たき初めて煙は空にくゆりわぶとも
こほりゐるみるめなぎさのたぐひかはうへおく袖のしたのさざなみ
からつちの見ず知らぬよの人ばかり名にのみ聞きてやみねとや思ふ
憂しつらしあさかの沼の草の名よかりにも深きえには結ばで
面影はをしへし宿にさきだちてこたへぬかぜのまつに吹くこゑ
新古今集・恋
年も経ぬいのるちぎりははつせ山おのへの鐘のよそのゆふぐれ
あぢきなし誰もはかなき命もてたのめばけふのくれを頼めよ
風つらきもとあらの小萩袖にみて更け行く夜半におもる白露
たふまじき明日よりのちの心かな馴れて悲しき思ひそひなば
かはれただ別るる道の野邊の露いのちにむかふものは思はじ