よみ人しらず
身のうきを 人のつらきと 思ふこそ 我ともいはじ わりなかりけれ
よみ人しらず
つらしとは 思ふものから 恋しきは 我にかなはぬ 心なりけり
よみ人しらず
つらきをも 思ひしるやは わがために つらき人しも 我をうらむる
よみ人しらず
心をば つらきものぞと いひおきて かはらじと思ふ かほぞ恋しき
よみ人しらず
あさましや 見しかとだにも おもはぬに かはらぬかほぞ 心ならまし
一條摂政伊尹
あはれとも いふべき人は おもほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
伊勢
さもこそは あひ見むことの かたからめ 忘れずとだに いふ人のなき
藤原有時
あふことの なけぎのもとを たづぬれば ひとりねよりぞ おひはじめける
貫之
おほかたの わが身ひとつの うきからに なべての世をも 怨みつるかな
人麿
あらちをの かるやのさきに 立つしかも いと我ばかり 物は思はじ
人麿
あらいその ほかゆくなみの ほかこころ われはおもはじ 恋はしぬとも
人麿
かきくもり 雨ふる河の ささらなみ まなくも人の 恋ひらるるかな
人麿
わがことや 雲のうちにも 思ふらむ 雨もなみだも ふりにこそふれ
貫之
ふる雨に いでてもぬれぬ わが袖の かげにゐながら ひぢまさるかな
よみ人しらず
これをだに かきぞわづらふ 雨とふる 涙をぬぐふ いとまなければ
よみ人しらず
君こふる 我もひさしく なりぬれば 袖に涙も ふりぬべらなり
よみ人しらず
きみこふる 涙のかかる 袖のうらは いはほなりとも くちぞしぬべき
よみ人しらず
まだしらぬ おもひにもゆる わが身かな さるはなみだの 河のうちにて
源景明
風をいたみ おもはぬ方に とまりする あまのを舟も かくやわぶらん
よみ人しらず
瀬をはやみ 絶えず流るる 水よりも 尽きせぬものは 涙なりけり