和歌と俳句

新勅撰和歌集

羇旅

大納言旅人
いざやこら 香椎の潟に しろたへの そでさへぬれて あさなつみてん

中納言家持
布施のうみの おきつしらなみ ありがよひ いやとしのはに 見つつしのばん

額田王
あきののに をばなかりふき やどれりし うぢのみやこの かりいほしぞおもふ

持統天皇御製
みよしのの やましたかぜの さむけくに はたやこよひも わがひとりねむ

田原天皇御製
あしべゆく かものはがひに しもふりて さむきゆふべの ことをしぞおもふ

よみ人しらず
いづくにか わがやどりせん たかしまの かちののはらに このひくらしつ

よみ人しらず
くるしくも ふりくるあめか みわのさき さののわたりに 家もあらなくに

弁基法師
まつちやま ゆふこえゆきて いほさきの すみだがはらに ひとりかもねむ

大納言昇
ひぐらしの ゆきすぎぬとも かひもあらじ ひもとくいもも またじとおもへば

謙徳公
ゆくひとを とどめかねてぞ うりふやま みねたちならし しかもなくらん

惠慶法師
みやこにと いそぐかひなく おほしまの なだのかけぢは しほみちにけり

伊勢大輔
けふやさは おもひたつらん たびごろも 身にはなれねど あはれとぞきく

和泉式部
こしかたを やへのしらくも へだてつつ いとどやまぢの はるかなるかな

藤原清正
かりそめの わかれとおもへど たけくまの まつのほどへん ことぞくやしき

左京大夫顕輔
たちわかれ はるかにいきの まつほどは ちとせをすぐす 心地せむかも

道因法師
しぬばかり けふだになげく わかれぢに あすはいくべき 心地こそせね

入道前太政大臣公経
たびごろも たつあかつきの とりのねに つゆよりさきも そではぬれけり

源家長朝臣
わかれぢを おしあけがたの まきのとに まづさきだつは なみだなりけり

藤原親継
わかれゆく かげもとまらず いはしみづ あふさかやまは 名のみふりつつ

藤原兼高
あかつきぞ なほうきものと しられしに みやこをいでし ありあけのそら