和歌と俳句

拾遺和歌集

恋二

よみ人しらず
身に恋のあまりにしかばしのぶれど人の知るらん事ぞわびしき

よみ人しらず
しのびつつ思へばくるし住の江の松のねながらあらはれなはや

大納言きよかげ
住吉の松ならねども久しくも君とねぬよのなりにけるかな

返し 忠房がむすめ
久しくも思ほえねども住吉の松やふたたび生ひかはるらん

よみ人しらず
なにせむに結びそめけん岩代の松は久しき物としるしる

よみ人しらず
かた岸の松のうきねとしのびしはされはよつひにあらはれにけり

人麿
あひ見てはいくひささにもあらねども年月のことおもほゆるかな

人麿
年をへて思ひ思ひて逢ひぬれば月日のみこそ嬉しかりけれ

人麿
杉板もて葺ける板間のあはざらば如何せんとかわがねそめけん

よみ人しらず
来ぬかなとしばしは人に思はせん逢はで帰りし宵のねたさに

よみ人しらず
秋霧のはれぬ朝の大空を見るがごとくも見えぬ君かな

よみ人しらず
恋ひわびぬ音をだに泣かむ声たてていづこなるらん音無の里

元輔
音無の川とぞつひに流れけるいはで物思ふ人の涙は

よみ人しらず
風さむみ声よわり行く虫よりもいはで物思ふ我ぞまされる

よみ人しらず
志賀のあまの釣りにともせる漁火のほのかに妹を見るよしもがな

よみ人しらず
恋するは苦しきものと知らすべく人をわが身にしばしなさばや

よみ人しらず
知るや君知らずはいかにつらからむ我がかくばかり思ふ心を

能宣
あすしらぬ我が身なりとも怨みおかむこの世にてのみやまじと思へば

人麿
思ふなと君はいへども逢ふことをいつと知りてかわが恋ひざらん


思ふらむ心の内を知らぬ身は死ぬばかりにもあらじとぞ思ふ