よみ人しらず
笛のねの春おもしろく聞ゆるは花ちりたりと吹けばなりけり
僧正深覚
武隈の松はふた木をみ木といふはよくよめるにはあらぬなるべし
源道済
さかざらば桜を人の折らましや桜のあだは桜なりけり
藤原実方朝臣
まだちらぬ花もやあると尋ねみむあなかま暫し風にしらすな
大江嘉言
桃の花宿にたてれはあるじさへすけるものとや人のみるらむ
藤原実方朝臣
みかの夜のもちひはくはじわづらはしきけば淀野にははこつむなり
和泉式部
思ふ事みなつきねとて麻のはをきりにきりても祓へつるかな
皇太后宮陸奥
君がかす夜の衣をたなばたは返しやしつるひるくさしとて
堀河右大臣頼宗
もみぢばは錦とみゆとききしかどめもあやにこそけふはなりぬれ
増基法師
おちつもる庭をだにとてみるものをうたて嵐のはきにはくかな
よみ人しらず
こころざし大原山の炭ならば思ひをそへておこすばかりぞ
天台座主源心
雲井にていかであふぎと思ひしにてかくばかりもなりにけるかな
和泉式部
はかなくも忘られにける扇かなおちたりけりと人もこそみれ
和泉式部
さなくてもねられぬものをいとどしくつき驚かす鐘の音かな
少将藤原義孝
忘れてもあるべきものをこの頃の月夜よいたく人なすかせそ
小大君
道芝やおどろの髪にならされて移れる香こそ草枕なれ
よみ人しらず
まけかたのはづかしげなる朝顔を鏡草にもみせてけるかな
大納言道綱母
思ひいづることもあらじとみえつれどやといふにこそ驚かれぬれ
能因法師
白浪のたちながらだに長門なる豊浦の里のとよられよかし
大江匡衡朝臣
はかなくも思ひけるかな乳もなくて博士の家の乳母せむとは
返し 赤染衛門
さもあらばあれ大和心しかしこくば細ちにつけてあらすばかりぞ