和歌と俳句

拾遺和歌集

哀傷

能宣
墨染の色は我のみと思ひしをうき世をそむく人もあるとか

返し よみ人しらず
墨染の衣と見ればよそながらもろともにきる色にぞありける

右衛門督公任
思ひしる人もありける世の中をいつをいつとてすぐすなるらん

右衛門督公任
ささなみや志賀の浦風いかばかり心の内の涼しかるらん

選子内親王
こふつくすみたらし河のかめなればのりのうききにあはぬなりけり

村上院 御製
いつしかと君にと思ひし若菜をばのりの道にぞ今日はつみつる

春宮大夫道綱母
たき木こる事は昨日につきにしをいさをののえはここにくたさん

藤原実方朝臣
けふよりは露のいのちも惜しからず蓮のうへのたまとちぎれば

夢想歌
朝ごとに払ふ塵だにあるものを今いくよとてたゆむなるらん

和泉式部
暗きより暗き道にぞ入りぬべき遥に照せ山のはの月

仙慶法師
極楽ははるけき程と聞きしかどつとめていたるところなりけり

空也上人
ひとたびも南無阿弥陀仏といふ人の蓮の上にのぼらぬはなし

光明皇后
みそぢあまりふたつのすがたそなへたる昔の人のふめるあとぞこれ

大僧正行基
法華経をわが得し事は薪こり菜摘み水汲みつかへてぞ得し

大僧正行基
百くさに八十くさ添へて給ひてし千房のむくい今日ぞわがする

大僧正行基
霊山の釈迦のみまへにちぎりてし真如くちせずあひ見つるかな

返し 婆羅門僧正
かひらゑにともにちぎりしかひありて文殊のみかほあひ見つるかな

聖徳太子
しなてるやかたをか山にいひに飢ゑてふせる旅人あはれおやなし

御返し うゑ人
斑鳩やとみのを河のたえばこそわがおほきみのみ名を忘れめ