後朱雀院御製
ほのかにもしらせてしがな春霞かすみのうちにおもふ心を
叡覚法師
木の葉ちる山の下水うづもれて流れもやらぬものをこそおもへ
馬内侍
いかなればしらぬに生ふるうきぬなは苦しやこころ人しれずのみ
源頼光朝臣
かくなむとあまの漁火ほのめかせ磯辺の浪のをりもよからば
返し 源頼家朝臣母
おきつ浪うちいでむことぞつつましき思ひよるべき汀ならねば
平経章朝臣
霜がれの冬野にたてるむらすすきほのめかさばや思ふこころを
大江嘉言
しのびつつやみなむよりは思ふことありけるとだに人にしらせむ
和泉式部
おぼめくなたれともなくて宵々に夢にみえけむ我ぞそのひと
藤原実方朝臣
かくとだにえやは伊吹のさしも草さしもしらじなもゆるおもひを
實源法師
なき名たつ人だに世にはあるものを君恋ふる身としられぬぞ憂き
源則成
年もへぬながつきの夜の月影の有明がたの空をこひつつ
藤原長能
汲みてしる人もあらなむ夏山の木のした水は草かくれつつ
よみ人しらず
小舟さしわたのはらからしるべせよいづれかあまの玉藻刈る浦
藤原通頼
ひとりしてながむる宿のつまに生ふる忍ぶとだにもしらせてしかな
道命法師
おもひあまりいひいづる程に數ならぬ身をさへ人にしられぬるかな
祭主輔親
しのすすき忍びもあへぬ心にて今日はほにいづる秋としらなむ
藤原兼房
いはぬまはまだしらじかし限りなく我がおもふべき人はわれとも
源兼澄
わぎもこが袖ふりかけし移り香の今朝は身にしむものをこそおもへ
中納言公成
雲の上にさばかりさしし日影にも君がつららはとけずなりにき
藤原よしみちの朝臣
年へつる山した水のうすこほりけふ春風にうちもとけなむ