和歌と俳句

平兼盛

十一 十二

何せむに 人ををかしと 思ひけむ 恋する袖の やすからなくに

逢ふことを 今やと待つに かかりてぞ 露の命の 年も経にける

はかなくも 落つる涙を つつみてぞ ひとめもるとは 言ふべかりける

わが恋は つつゐの水と なりななむ 心をくみて 人は知るべく

言の葉は 色やは見ゆる 濃むらさき 深き心は ねそめてぞ知る

さざれ石の 上も隠れぬ 澤水の あさましくのみ 見ゆる君かな

詞花集・恋
谷川の 岩間をわけて 行く水の 音にのみやは 聞かむと思ひし

わが恋に くらべてしがな 山川の 岩間の波に 数をそへつつ

きみをおもふ−かすにしとらは−をやみなく−ふりそふあめの−あしはものかは

双葉より 今はおほたの 松の葉の いくよか君を 恋ひて経ぬらむ

辛くのみ 見ゆる君かな 山の端に 風まつ雲の 定めなきよに

きみ恋ふと 消えこそわたれ 山川に うづまく水の 水輪ならねど

わか恋に たぐへてやりし たましひの かへりこと待つ 程の久しさ

後拾遺集・恋
恋ひそめし 心をのみぞ 恨みつる 人のつらさを われになしつつ

わが恋は 長柄の橋の したよりも 告ぐるよなくも なりにけるかな

わが恋は 魚なき淵の 釣なれや うけもひかれで やみぬべらなり

天の戸の あくるや惜しき にはとりの なかぬあしたも なくぞなりぬる

逢ふことの なきつつかへる よなよなは いたづら寝にも なりにけるかな

名にふりて 世に住之江の 神もなし 恋ひしき人の 影も見えねあ

恋ひしとは 何をかいはむ いはなみに たぐふみなわの 消えぬばかりを