はかひせし 蘆もまばらに 枯れはてて くきのわたりぞ 寂しかりける
よくたちに 千鳥しばなく ひさ木おふる 清き河原に 風や吹くらむ
波かくる 岩はひまなく たるひして こほり閉ぢたる 山川の水
夜もすがら 霜やおくらむ 水鳥の 払ふ羽音の たえず聞ゆる
篝火を ともさざりせば 氷魚のよる 網代の程を いかで知らまし
夜もすがら とる榊葉に 置く霜の 解けざらめやは 神の心も
白ぬりの すすもゆららに いはせのに あはせてぞ見る ましらふの鷹
炭竃の そことも見えず ふる雪に 道たえぬらむ 小野の里人
山里に ひとり寝る夜は 埋火も 板間の風に 吹きおこされて
門松を いとなみ立つる その程に 春あけがたに なりやしぬらむ
おもひあまり けふ言ひ出だす 池水の 深き心を 人は知らなむ
わが恋は からすはにかく 言の葉の うつさぬ程は 知る人もなし
詞花集・恋
わが恋は 吉野の山の 奥なれや 思ひいれども 逢ふ人もなし
播磨潟 うらみてのみぞ 過ぎしかど 今宵とまりぬ あふの松原
恋ひしさに わが身ぞ早く 消えぬべき 何あさつゆの おきて来つらむ
神もきけ おもひもいでよ くれたけの ただ一夜とは いつか契りし
恋ひしさを 妹知るらめや 旅寝して 山の雫に 袖濡らすとは
何しかは 人をうらみむ ひたすらに こころ弱げに 告げるおもひを
かたしきの かたおもひして 須磨の浦に 垂るる藻塩の 辛きころかな
おもひかね よるうらかへす から衣 うらみをれども 知る人もなし