和歌と俳句

藤原顕季

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山里の 筧の水の せはしきに なほ有明の 月ぞやどれる

千載集・雑歌
玉藻かる いらこが崎の いはね松 幾代までにか 年の経ぬらむ

冬籠り 色かはりても 見えぬかな 竹のよごとに 雪は降れども

雲かかる あをねが峰の 苔莚 幾代経ぬらむ 知る人ぞなき

鳴海潟 あさ満つ潮や 高からむ あさりもせなで たづ鳴き渡る

峰たかき 越のをやまに 入る人は 柴車にて かへるなりけり

舟もなく 岩浪たかき さかひ川 水まさりなば こともかよはじ

梓弓 いる野の草の 深ければ 朝ゆく人の 袖ぞ露けき

いもがりに 雲のふるまひ しるからむ となみの関を けふ越え来れば

東路の 佐野のふなはし 朽ちぬとも 妹しさだめは 通はざらめや

おほみ舟 とだなに波は かくれども ふちどをさして 浦つたひゆく

おもひいでぬ 人のなきかな 萱根刈り 袂つゆけき 旅のねざめを

から衣 袖のわかれの かなしさに 思ひたちけむ ことぞくやしき

金葉集・雑歌
ひぐらしの 聲ばかりする 柴の戸は 入日のさすに まかせてぞ見る

小山田の 稲葉の露に そぼちつつ ひとめもる身は 苦しかりけり

末の世の 人に見よやと 岩代の 野中の松を むすび置きけむ

うたたねの 夢なかりせば 別れにし むかしの人を またも見ましや

あさひ待つ 露ばかりなる 命もて ながらへ思ふ 人ぞはかなき

なぞやこは わが身は越の 白山か かしらに雪の ふりつもるかな

君がため ゆはたのきぬを とりし手で 神をぞ祀る よろづ代までに